第316号 1986年7月
― 第122回例会講演 1986.5.20 ―
林業の相続税制と立木評価のあり方
(財)林 政 総 合 調 査 研
究 所
理事長 手 束 平 三 郎
はじめに
御紹介いただきました手束でございます。私が日本林業同友会のお集まりの席でお話しするのは、実はこれが二回目でございます。御記憶されている方がおられるかどうか存じませんが、前回は昭和41年の春に、当時私、林野庁の担当課長として立案しておりました、現在の森林施業計画制度とそれにまつわる三つの税制の特例といった構想についてお話し申し上げたところでございます。当時は顧みますと、30年代の峠は越えていたとは思いますけれども、なかなか林業の勢いの良いころでございまして、林野庁案に対する御支援の力も強く、また、ここにおられる神足さんに国会の根回しなどを良くやっていただいたりしまして、私もまだ若こうございましたが、お蔭でその構想は、順調に翌年に実を結んだのでございました。
それからもう20年が経過しましたが、昭和50年以降は、日本の林業も非常な苦境に陥り、特に昨今の数年間は、厳しいというも愚かなりでございまして、長い、いつ果てるやもしれぬようなトンネルの中を歩いているというような感じが致します。こんな状況が長く続きますと、折角林業に一生懸命になっておられる方々も見切りをつけて諦めてしまわれるのではないかという心配もなきにしもあらずでございます。
幸い、森林・林業に関する国民的な関心、これは昨今、総論としては高まってきております。しかしながら、その世論を林業振興に結びつける具体的な施策となりますと、いかんながら十分でないというのが現状でございます。
さて、法人税とか所得税は、もうからなければ納めることはないわけで、税金の多いことの方が林業繁栄の象徴だともいえるわけでございますが、相続税とか贈与税とかの資産税は、儲かるか儲からないに関係なく、別の論理でもって徴収されるわけでございます。このような関係は皆様十分御承知のことと思いますけれども、議論の筋としますと、しばしばこれが混同されまして、景気が悪いのだからなんとか税制の方をという話が出がちでございますが、混同されたまま話が進みますと案外揚足を取られまして、なかなか制度としては実りにくいというような構造もあるので、あえて申し上げる次第でございます。
林業税制の仕組み
本日は、林業の相続税等に関するお話ということで御注文をいただいたのでございますけれども、相続税に関わる論議は、ややもすれば話の筋が混乱しがちであるというような感じが致しますので、これにつきまして議論の種類を四つばかりに整理をしまして、お話を申し上げたいと思います。
一つの種類は、林業一般の税制としての問題、例えば山林所得税はだれが林業をやろうと適用されますように、そういうものとしての問題、これは仮にGランク、General Treatmentと申しますか、一般的な扱いとしましてのGランク、これの部類のものが一つございます。
次いで、あえてランクをつけますならば、Aランクといいますか、森林・林業に関する新しい構想なり政策を打ち出すのと同時に新しい特例措置としての税制を求めていくというやり方、これがAランクでございます。20年前の森林施業計画制度もこのAランクであったわけでございます。
それから、その次がBランクということで、これは現行の森林・林業制度の中で税制の仕組みについて法的な措置を考えていくということです。例えば、森林施業計画制度に伴う現行の特別措置の中で林業関係の相続税の延納期間を15年から20年にしたとか、あるいは、延納利子税を5分6厘から4分8厘に下げたとか、そういうようなことで、特別の林業制度が新たに打ち出されたのではないわけですけれども、現在の特例措置の見直しをやって改善するというのが一つのランクになると思うのでございます。
さらに、その次がCランクで、このCランクについては、すべて現行制度の中で税務運用上の問題として合理化を考えていくということでございます。
この四つに大分けしますと、政策、制度論の種類の区別が分かりやすいと考えます。これらのうち、林業の一般措置、Gランクについて見ますと、昭和29年に戦時中からシャープ税制で山林所得税制がしばらく引っ込んでいたのが復活した際、一緒にできました相続税法第26条の2、すなわち現行の立木資産の85%評価、すなわち15%引きというのが、相続税法本法に載っておりますけれども、これはだれが林業をやりましても全体に適用される相続税制でございます。
特例措置でないのは、これがただ一つでして、以後はそれで打ち止めになっているということでございます。
次いでAランクの措置はどうなったかと申しますと、先ほど申し上げました、昭和40年代の森林法改正によります森林施業計画制度、これに付随したところの森林計画特別控除、計画造林準備金、それから立木に関する相続税の延納の特例、これら3つの特例がそろって打ち出されたわけでございます。しかしながら、その後現在に至るまでAランクに属する措置は、この20年近くの間なされておらないというのが実情でございます。もし、今後、林業の相続税を軽減し得るような措置を実現しようとするならば、一般措置としてできることが望ましいとは思いますが、それはなかなか難しく、せめてAランクでやっていくというのが、構想としては次善の筋ではないかと考えられます。
それはどういうことかと申しますと、一般措置ではございませんから、ある条件を守った人には有利な税制を適用するという仕組みになるわけでございます。その内容としてどんなことが考えられるかと申しますと、以前私がおあずかりしている研究所でレポートにして出したものがありまして、これにつきましては、一昨年でしたか、林経協の総会の時にお話ししたことがございますので、承るところによりますと同友会のメンバーの方々は相当林経協さんのメンバーでもあられるとのことでして、あるいは一部分話が重複することになるかもしれませんが、それにかまわず今回はやらしていただきたいと思います。
林業税制の沿革
さて、それでは、なぜ一般措置が無理でAランクでいかなければならないかということを分かりやすくするために、少し古いところから話をさせていただきますと、我が国において最初に所得税制ができましたのは明冶20年、この時は未だ議会もなかった時代で、勅令でございました。次いで、明治32年に法人と利子と個人の3つの税の区分ができたわけでございます。間もなく明冶30年代に日本の林業は民間でも段々に盛んになるわけでございますけれども、個人の税制の部分を林業にそのまま適用するのは不適当である、林業の実態に沿わないという主張が林業家の間から段々と起こってまいりまして、明冶の末ごろから相当折衝がございました。規則の解釈について行政裁判なども行われておりまして、この当時は林業家の方が勝っこともございました。その挙句に大正9年に分離課税が行われた、その後6年たちまして大正15年に現在の分離5分5乗、この山林所得税制が定まりまして、これが丁度60年前になるわけでございます。
この措置は、戦後の租税特別措置、すなわちAランクに類するものとは違いまして、先ほど申しましたように、条件付の措置ではなく、植えて育てるところの林業の本質に根差したGランクの恒久法として実現したわけでございます。現在、所得税法に定めるところの所得の種類、これを見ますと、利子、配当、不動産、事業、給与、退職、譲渡、山林、一時、及び雑と10種類になっており、この決め方は原則としまして、全産業・生活分野を横断するところの共通の所得現象、これを捉えて所得の種類を決めているのでございますが、この中で林業にだけ適用される、税額がわずか全体の0.3%ぐらいだろうと思いますが、そのようなものに一つの種類ができている、山林所得という種類がここに並べられているということは、誠に大変なことでございまして私どもの先輩はなかなか良い仕事をしたものだと思うのでございます。
余談ですが、大正10年ごろの大日本山林会の会報を見ますと、これを実現するために、山林所得税研究会というのができておりまして、そのメンバーの名前が色々と載っておりますが、現在の林業家の方々の先々代くらいにあたられる方々のお名前が沢山出ているのを見受けることができます。
これは、山林所得というものの特質を所得税の原理と調整して次元の高い処理を行ったものだという評価をされるわけでございまして、その余慶は現在もなお継続をしているということでございます。
しかしながら、考えてみますと、林業の本質と税の理論との矛盾、これは所得税における関係よりも相続税における関係の方が、端的かつ明白であります。天然林を資産として持っているというだけならばともかくと致しまして、植えて育てていくという林業である限りにおきましては、生産過程の商品としての側面、これを立木資産が備えているわけでございまして、長期のものは他に例がありません。短い期間であれば果樹の育成とか真珠のいかだ養殖とか、畜産で子牛を育てるとか、ぼつぼつないことはないのでございます。いわゆる商品過程のものが資産になるということはあるわけでございますけれども、数十年もの長い間、全体の生産過程の商品がいわば仕掛品状態にあって、それらが相続という一時点で資産として現出するというようなものは他にはございません。林業だけでありまして、これは昔も今も同様でございます。
それにもかかわらず、林業の所得税については分離5分5乗制ができた、それほど力のあった先輩方がなぜこれほど矛盾のはっきりしている相続税について特別のもの、いわゆる山林相続税制といったものを実現できなかったか。これは推測ですけれども、大正、昭和、戦前期における相続税は、今日と比べて非常に軽くて、あまり資産家の生き残るための問題意識にはならなかった、そういうことがあるようでございます。昔は、一回資産家になりますと、道楽息子が跡をとって無限に金を使ったとか、あるいは株に手を出したり、投機事業に手を出したりして、矢敗でもしない限りは、旦那さんで何代も続くというのが普通でございました。ところが、第二次世界大戦後は世情が一変致しまして、相続税が資産家に重くのしかかるように変化してまいったわけでございます。
これは大体、昭和20年代の措置に発するわけですが、その当時は、日本経済建て直しにあたりまして、少しでも余力のあるところから税金を取り立てようということから始まっておりますので、平等思想よりはむしろ税源対策的な視点が先行していたわけでございますけれども、その後期せずして起こりました経済成長の中で、今日の中流層とか中間層の拡大といった国家の安定上の好結果を生み出したということで、今や相続税制は、戦後の緊急避難的なものではなくて日本の国是に合ったところの基本政策としてどうやら定着したのではないかと考えられます。世界的に最も厳しい部類の相続税ということになったわけでございます。
俗に申しますと、自由主義国ですから、努力と才覚で金をもうけることは自由である、しかしながら、「子孫のために美田を買わせず」でありまして、これを次代に残すという段になりますと、大部分を社会に還元させる。また、三代目となりますと、二代目が稼げば別ですが、前の中流層に帰ってもらうというくらいの考え方が現在の相続税制の底流として流れていると考えられます。
そういうことだとしますと、親子二代とか、あるいは親子孫三代にわたって生産をしなければならない立木商品、こういうものを一体税制上どう取り扱うべきかということでございますが、そこのところの政冶哲学と申しますか、林業の特質を捉えた考え方、それは遺憾ながら未だ欠落したままになっているというのが現状でございます。
林業の相続税制の考え方
ここでもし、林業の相続税問題というものをまともに、純粋に取り上げようとしますならば、明冶、大正の先輩達が我々に山林の所得税制を残してくれたことに倣いまして、これから山林相続税制という独自の範ちゅうを確立するということが、20世紀末に生きる我々が21世紀の子孫に残す務めではないかと大上段にはいえるわけではございますが、なかなかこれは今となっては難しいことでございまして、現状では次善の策としましてAランクの対策を構想していくということではなかろうかと考える次第でございます。すなわち、それは、だれでも林業をやっていれば適用するという税制ではなくて、やはり林業のやり方その他に条件が付いて、その条件を守る人については、なんとか面倒をみようという構想にならざるを得ないわけでございます。
現在、森林施業計画制度がありまして、ある程度の特例措置はありますけれども、それには相続税の軽減という考え方は入っていないわけでございます。延納のやり方につきまして、若干の優遇措置があるに過ぎません。
それでは、現在、相続税を軽減するという考え方で出来ているAランクの特例借置があるかと申しますと、皆様御存知のとおりの、昭和50年にできましたところの、いわゆる農地特例措置、特例農地の相続、これに関する付例がただ一つあるだけでございまして、ほかには全然ございません、これはなんのためにできたのかと申しますと、農業後継者の確保という農政上の要請、それが柱になってできた特異なものでございます。
もし将来、他の分野でこれに類する特例措置ができるとするならば、それは林業についてであろうと、私は思うのでございます。また、林業についてでなければならぬと念願をしている一人でございます。
ですから、林業一般の相続税制、先ほど申しましたGランクのものは無理だと致しましても、Aランクの考え方でございますと、現在の林野当局の政策の立て方、それに対する関係者の協力いかんで、道は非常に険しいけれども不可能ではないと考えられます。しかしながら、なかなか容易でないのも事実でございまして、まず一般論としまして、真面目に林業を経営する人が、通常の経営努力をもって、通常の善管義務をもって守れる範囲内のものでなければならない、ウルトラCのようなことをやらなければならないのであれば、だれもできないということでございます。
次に、守った人に対して、相続の時点において、なるほどこれほどまで見てくれるかというくらいのメリットが伴わなければ、一生懸命やってみてもその甲斐がないということでございまして、この二つのことがいえるかと思います。
さらに、特例を守っているかどうかということを、税務当局がトレースしていくについて、あまりに多くの人手をかけて、大きな組織でやらなければならないということであれば、それはまた、実現性が乏しいわけでして、割合手軽に確認できるような仕組みが伴うことも必要でございます。
それでは、このためにはどうするかと申しますと、具体的には20年近くも実施しております森林施業計画制度、この制度に少し手を加えまして、継続樹立確約者を新たな特例措置の対象とし、森林・林業政策の本筋として中核的な林業経営者の経営というものが永続するように、また、その経営する森林が相続税によって破壊されることのないように、そのための軽減措置の特例を設けるということでございます。
これが一つでありますと同時に、片方で、法人化を容易にする措置についても考える必要があります。法人化を容易にして、その経営上のメリット、これを整えていくことでございます。
このような案の詳細につきましては、先ほど申しました私の研究所のレポートにも載せておりますし、また、以前に、昭和59年でしたか、林経協月報にも説明をしたことがございましたので、時間の都合もあり、内容についてここで詳しく触れることは省略をさしていただきます。
ただ、これを実現する道としましては、中核的な林業経営者を担い手として重視するところの森林・林業政策が打ち出され、林業界がこれに賛同して協力するということになるかと思います。以前、20年前の森林施業計画制度の時にも、そのようなパターンでもってあの制度が実現したわけでございます。今後のことといえども、座して待ってできるとは考えられません。
以上がAランクの問題でございますが、Bランクは先ほど申しましたように、取り立てて新しい林業政策などを前提とはしなくても、現行の特例措置等を改善していくというものでございます。現行の租税特別措置法の立木の相続税延納の規定、これは昭和42年にできたわけでございますけれども、これにつきましては、同友会の皆様方とか林経協の皆様方とかの御努力てよりまして、その後逐次改善が加えられております。延納期間は、一般が15年のところを、立木資産については20年に延ばすとか、あるいは、延納利子税が一般には5.6%のところを、立木については4.8%とするということなどがこの類でございます。
このように、林業制度にかかわらず、税制としての合理化という意味で改善して貰うということにつきましては、なお情勢いかんによっては、要請を行って改善が進むことも可能と考えられます。ただ、留意すべきは、Bランクの筋の中で相続税額そのものの軽減を求めるということになりますと、それはなかなか無理だということで、やはり、なにか新しい林業政策が打ち出され、それに伴う措置という構成が肝心でして、現行の政策の中で軽減を求めるのは難しいということでございます。
法人化の問題
なお、あまり皆さんがいわれないことで、私は気が付くのですが、このBランクの筋の中で努力次第では多少実質的に軽減に結びつくポイントが一つ隠れているのではないかと思うのでございます。それは、昭和49年にできました法人化の際の立木出資に伴う山林所得税の納期限の延長ということがございますけれども、これに加えて、林地の譲渡所得税の納期限の延長をするということでございます。御承知のとおり、昭和49年の法人化の特例措置、これも租税特別措置でございますけれども、その後これにより法人になったのは全国でわずか4人だけしかいないというのが実情だと聞いておりますが、あまり利用されないのは、端的にいってメリットが少ないからでございましょう。
しかし、やってやろうというからには、もっと実質的にできるようにメリットを拡大する努力がなされなければならないと思うのですが、それがあまりなされておらないままに、この制度はあまり役に立たないという評価をする向きもないではないということでございます。こういうことですと、林業に関する税制はなかなか前進がないと思うのでございます。
これを良く観察しますと、法人成りの際の出資立木に係る山林所得の納期限の延長というのは、現行の税制の下では非常に異例の措置でございまして、林業に対する配慮としてキラリと光る一つのエレメントを持っているように、私には思われるところでして、折角主税局がここまで認めたこのような成果を拡大していかない手はないと思われます。
それはどういう点かと申しますと、立木出資の場合の山林所得税の額の計算を出資の時点で据え置いてしまうこと、すなわち、今全部出資したらそこで山林所得税の計算をして、額をそのまま据え置くということでございまして、出資を受けた法人がその立木を伐る場合に据え置かれた額を納めればよいという措置になっているわけでございます。それも、何十年もたってから、どこの場所を伐ったかなどはなかなかはっきりしないわけですけれども、その場合面積按分でよろしいというところまで、主税局は割り切ってくれているのでございます。税額そのものを据え置くわけでございますから、早いものは、5年か6年で伐ってしまうかもしれませんが、10年生くらいのものですと、40年で伐るとしまして、30年も置く、そうなるとこの措置は無利子なんですから、同じ額が30年据え置かれることになります。例えば、金利7分少々ぐらいで考えれば、10年で半分になり、20年で4分の1、30年で大体8分の1になる、そのほか一般のインフレ率その他4〜5%のものを勘案しますと、大体30分の1か50分の1か実質その程度のものになってしまうということでございます。そして、それが現行の制度としてあるのでございます。
昭和49年当特、法人化の特例ができたころは、取り立てて林業の法人化という政策が大きく打ち出されたという風には聞いておらないわけでございます。にもかかわらず、これほど思い切った一つの措置ができたのはどうしてかと考えてみますと、当時、現在の農地特例法、農地資産の相続の特例法の構想が動いていたわけでございまして、それは昭和50年にできておりますが、この林地についての措置は49年でして、大体少し前広く動いておりましたから、当時は既にそのことで政府筋でも国会筋でも動いていた、大蔵省としてもこの農地にだけは相続の特例を認めざるを得ないのではないかという意見に段々と追い詰められていたと思われるのでございます。
この農地の特例法の減税の度合を見ますと、20年間あるいは死亡するまで保有していたならば、農地の評価を時価ではなくて農業投資価格でするということになっておりまして、農業投資価格はいくらかと申しますと、大阪で確か水田が90万円ぐらい、東京でも90万円、畑だと60数万円ということで、坪3千円、畑で2千数百円、市価が、宅地造成もなにもできていないので60万円ぐらいにみましても、200分の1とか、畑なら300分の1とかいう極めて大きな減税額となっているわけでございます。
こういう大きな減税額を農業についてともかく認めねばならないという時に、林業についても、森林施業計画制度もあることだし、少しは面倒をみる必要があるのではないかという心理が、当時主税局当局にもあったからして、認められたのではないかと思うのでございます。
同友会さんの方では、どちらかと申しますと、法人化よりは相続税に関する措置の方に重きを置いて運動しておられると聞いておりますが、方向としては、できるならば是非とも二本建にすべきではないか、二本建にして人によって選択をすればよいのであって、規模、林況その他の関係で相続税の軽減でいく人はそれでいいし、法人化の方が良いと思われる人はそれでいけばいいと思います。
大体、長い間の商品化の過程のものが一時期に資産として現出するというのは、先ほど申しました果樹などはぴったりしませんが、昔の西洋におけるウィスキー製造なんかはこれに該当すると思います。看板どおりやれば、50年も60年もかけて置いておくわけですから、個人営だったら、相続の時点で皆資産になってしまうということになります。しかし、これがあまり問題になっていないのは、すべてが法人化されているからでございます。したがって、法人化することも相続税の問題を軽減するための一つの方法でして、ただ、法人に移行する際の措置が問題だから、それを移行し易くするということも考え方の一つに入れておく、両建でいくというのが良いと、私は思うのでございます。
そこで、立木について30年でも40年でも待ってやろうという措置ができたのですから、林地の譲渡所得税、これについてもその時点で据え置いて、今日ですと長期譲渡所得税20%を据え置いといて、何十年でも待ってやる。そして上の木が伐られた時に面積按分でその分を納める、そういうことを考えることは、同じ類型の考え方の中でできるわけでございます。
しかも、それは主税局の方で踏み切ったのですから、もう少し頑張ればBランクの中でできると思うのでこざいます。これをやるについて、新しい理論構成は要らないわけでございまして、主税局は立木が林業の特性で土地は嫌だといって頑張るんだろうと思いますけれども、しかし、転用されないで林業に使われる限りにおいては、林地の価値はその上の立木の処分によって得られる価値以外にはないのでございます。ですから、転用しないという保証、すなわち、現在でも施業計画制度が続いている場合だけ立木の特例があるわけですから、土地の価格の特例があっても一向おかしくないということでございます。
こういうことができれば、今までよりはこれがもっと応用されることがあるのではなかろうか、また、割合地価の高い地方で林業を法人化する場合、相当メリットがあるのではなかろうか、現在Bランクの中でできる穴場だということで主張しておきたいと思うのでございます。もちろん、私のところのレポートの中でこの筋のものをAランクで取り上げてございますけれども、この場合は、別に新政策が出てきたことに対する措置でございます。いわゆる長期森林施業計画というものができた場合の措置として構成しておりますけれども、そのような場合は、林地の譲渡所得税の対象となる地価は農業投資価格に見合った林業投資価格というものを適用すべきであるということと、法人化してから後の株券の相続についても長期施業計画を守っていく場合の相続税の特例に見合ったような株券の評価を併せて加えるという考え方をそれに載せております。
税務運用上の問題
以上がBランクのお話でございますが、次がCランクでございます。現行の森林・林業制度並びに税制の中でもって、その運用上林業にとって不合理な点を極力是正を求めていくという線でございます。これは、申すまでもなく、第一に立木の課税評価のことがございます。木材価格はこのところ、毎年、市価が下がっているということでございまして、要望として立木の評価を下げよというような要請は、毎年行われておりますし、また、国税庁の方でもそれは認めまして、ある程度引き下げ措置を講じているわけでございます。しかしながら、課税評価の原理そのものを含めて、やり方がおかしいのではないか、それをこういう風に変えて評価をここまで下げろというような要請は、なかなか今まで行われていないのが現状でございます。
私がこう申しますと、いささか語弊がないでもないのでございますが、現行の国税庁の基本通達による立木の評価理論、これは30年も前の林業の勢いが非常に旺盛だった時代にできあがったものでございます。それが堂々と今もまかり通っており、基本的には全然理論は変わっておらないのが現状でございます。これをそのまま放置しておきまして、ただ値段を考慮して下げてくれというだけでは、陳情にも限界があるわけでございます。
御承知のとおり、昭和60年度からでございましたか、立木の評価の理論値に非常に無理があると思われる場合については、すなわち、国税庁の評価通達に基づいて計算をした額がどうも実情に合わないという風に判断される場合においては、精通者意見価格を導人することになりました。これは苦しまぎれの措置だと思うのでございますけれども、だからといって、精通者というのはどういう人で、どういった資格を持つんだとか、精通者がどういう場合に意見を述べて、それをどういう具合に採用していくというようなことは一つも決まっていないわけであって、要するに、精通者意見価格というのが通達の中て書いてあるということでございます。
その真意は、どうも従来のやり方でやってはおかしいことになることがあるという自覚症状があるということでして、そうはいっても理屈を適用していくとある線より下げることはできない、だけど無理なこともあり得るだろう、だから、精通者意見価格というものを待ち込んでおいて、もし査定に当たる税務署員自身がおかしいと感ずれば、そこで精通者意見価格として調整できるような余地を残したという風に考えられるわけでございます。それは、書いてないよりは良いわけでございまして、理屈がこうなっているから一切動かせないとばかりいっているのではなくて、多少なりとも調整する余地ができたというのは結構なことだと思います。
しかし、これは役人に手を渡したようなやり方でして、向こうさんがそう考えなかったら、なんともならん、だから良く理解のある署員に当たれば運がいいということになりますが、さっぱり分かってないのに当たって、精通者はどこにいるかなんていわれだしたら、どうにもならないわけでございます。したがって、もう少し理屈の方を詰めておく必要があると、私は思うのでございます。
地理級
それでは一体、どこが現行の基本通達、評価方式のおかしいところかと観察を致しますと、まず地利級でして、例えば評価の基準となるところの標準的林分の位置、これは林道端の山土場から小出し距離2qということになっている。昭和61年の現在においても、山上場から2qの所が標準的な林分の位置になっておりまして、そういう所の林分の評価をして、そしてグラーゼル式を適用するということです。標準的な林分の位置が2qということですと、最近、2qの小出しをやって木を出すということになりますと、余程の貴重材なら別として、一般材なら架線を張るにしても二段集材かなんかになりますし、立木代が出るどころかマイナスになってしまうというのは林業界の常識でございます。
しかし、明らかに国税庁長官通達では2qと定まっております。これがなぜ定まったかと申しますと、戦後の安い労働力がふんだんにありまして、木馬道を伸ばしていけば奥からいくらでも運べるという時代にできた通達でございます。そして、結局、7q奥になったらやっと立木代がゼロになるということに現在でもなっております。
こういうようなことでございますと、いったん相続があった場合において、現存立木価値は、林道のない7qの所まで成立するんだという考え方が基本になっているわけでございます。これは誠に無茶苦茶な話でございまして、今は標準が500mぐらいの所ということで、せいぜい1qかそこらの所に一般の小出しの限界がくるのではないかと思います。
これはどうしても直していかないと、非常に不利な結果を来すことになります。もちろん、税務署員だってわけの分かった者もおりますから、そうはなってるけれどもとても無理だろうということで、先ほどの精通者価格とかなんとかいってうまくやってくれている所もあるかも分かりませんけれども、一般論として、こういうようなことになっているということは、非常に不利な条件だと思うのでございます。それを楯に取られたならば、なんらやりようがないということでございます。
それから、もう一つは、公道とか公営の林道と私設の林道とか作業道ですが、それらは自動車さへ通ればすべて同じように見られるようになっているのも問題だと思います。
実際に相続事案が起こった時に、これは自分でつけた作業道なので地利級を上げるのはおかしいというような陳情が行われて、ある程度はその事案、事案について調整が行われているような話も聞くわけでございますが、一般的には確かに違うわけであって、町村あるいは県でちゃんと管理している公道や公設林道の側にある山土場からの距離と、自分が私費を投じて作業道を作ったとか、あるいは林道であっても森林組合などがやっていて管理費は町村から出ないので費用は全部受益者が持たなければならないといったものと同じように扱うようになっているのは非常におかしいではないか、どう調整するかについては、私の方にも一案はございますけれども、二案も三案もあるだろうと思います。
しかし、いずれにせよ、今のままでおかしいというのが、そのままにされているのは問題だと思います、調整を要するんだという原則、それが国税庁の方針として確立しておらないと不合理なことが生ずる場合があるわけです。実際は、調整してくれているかもしれませんけれども、それは恩を着せられてそうなっているに過ぎないわけです。決まっていないのにやってやったということになると、他の分野で無理されても、借りがあるから我慢しなければならないという兼ね合いになります。ちゃんと決まっていれば、やって貰うのが当たり前なんですが、書いてくれてなければ、やって貰うのは向こうの好意になってしまいます。こういう問題を放置しおいてはいけないと、私は思います。
標準伐期
それから、もう一つは、課税評価の基準値となるべき林分の林齢です。国税庁の定めているところの標準伐期は、最も伐採される頻度の高い林齢という定義になっております。例えば、大阪ではスギが40年とか、ヒノキなら50年とかいうことになっているわけでございます。実際にはその辺のところで主伐できますけれども、多くの地方で、昭和50年前後ごろから段々と、こういう林齢になっても伐られない傾向が顕著になってきております。すなわち、例えば40年前に植えられた一群の林分があったとしまして、40年後に伐られたかどうかトレースをしてみますと、明らかに伐られない残存率が50%を超えて、ところによっては90%を超えるまでに増加しているわけです。それは、森林計画等の資料から確認できます。
そうなりますと、現行のものが一番伐採が集中する林齢とはいえないわけです。だから、標準伐期に値しない一般の感じでは大体今の国税庁の定めより10年ぐらいは延びているのではないかというような観測もございますけれども、段々とそういう方向へいっているのは間違いないと思います。しかしながら、それを実証的にいいませんと、なかなか改めて貰えないわけです。ですから各地方における齢級推移の実態その他を示しながら、林業の実勢に沿わない点を是正して貰うよう働きかけを行えば、説得力があると思います。
幼齢林の評価方法
それから、次にもっとおかしいのは、幼齢林とか中間齢級の評価方法です。標準伐期の林分の立木の評価は、毎年国税庁が調査をして、これと一年間の造林費用の額をグラーゼルという公式でつなぎまして、そして当該林齢の林分の評価をするという方式が、現在採用されているわけでございます。
しかしながら、これも今の林業の状勢には合ってはおりません、グラーゼルの公式の生立ちとか、あるいは、我が国になぜグラーゼルの公式による評価方法が導入されたのかといった事情などを調べてみますと、今の実情に合わないということは明らかでございます。
グラーゼルという若齢林評価の方式が、役所を含めて民間でも、万能式と思われているきらいがあるようでございます。しかしながら、決してそうではございません。百年ほど前のドイツの林業事情をバックに考案されていた式を基に、第一次大戦で戦死した若い森林官、グラーゼルが発案した式でございまして、それには問題が二つあるわけでございます。まず、評価の曲線の発起点に一年間の造林費を設定するということになっております。ですから、一年間の造林費はいくらだというのを国税庁が決めて、20数万円とか割合安く決めてくれてはおりますけれども、それがカーブの発起点でございます。そして、曲線の終点には、標準伐期の林木価格を市価で設定しているということでございます。
幼齢林の方は原価ですから、例えば一年生のものですと、苗木代とか人夫賃は毎年上がりますから、毎年上がるということになります。一方、40年生のものは市価ですから、ここのところ段々下がっている。このごろの評価式は、一方が上がって、一方は下がる、幼齢林が上がって、伐期に達したものは下がるという妙な格好になっております。そして、それはグラーゼル式を採用しているから、そういう妙なことになっているわけです。そういう矛盾があるので、国税庁も困っているのではないかと、実は思うのでございます。
林業が強い時代には、中間齢級の評価のレベルは、実際の取引がある場合には、一般の先物の価値が割引かれる経済趨勢よりも標準伐期齢級の評価点からの下降の曲線が緩やかになるということはあり得ただろうと思います。日本の昭和20年代とか昭和30年代には、そういうことであったろうと思います。そのため、ドイツから導入したグラーゼル式を採用していても、大した矛盾はなかったということでございます。しかし、林業の勢いが弱くなりますと、一般の割引評価に用いられる複利現価曲線よりも緩やかに下がるということはあり得ないわけでして、グラーゼル式の矛盾点がはっきりしてまいります。なぜその式を使わなければならないのか、ドイツ人がやって日本人がそれに倣ったからだという以外に、何の理由もございません。
国税庁に聞きますと、林野庁が使っているということをいいますが、それは森林保険の補償価格の算定に使っているのでして、災害があった時の補償は少なくも原価を割らないようにしてやらなければならないという配慮がございますから、今でもグラーゼル式を適用して結構だと思います。
それから、国有林の財産処分の場合に、立木については、グラーゼルを使っているではないかともいわれます。しかしながら、国有財産というものは、だれが何といおうとも、原価を割って処分するわけにはいかないと関係者は申します。そういう国有財産法運用上の原則がありますから、グラーゼルでやって構わないということでございます。国税庁が一般の立木の評価を行うのと全く違うわけでございます。
課税評価は民間の立木価格について、客観的にどういう価格が成立するかということを見るためのものですから、それに原価要素の入っているグラーゼル式を使うというのは、非常におかしいということでございます。原価要素の入っていることと、中ふくれの力ーブになっているということの二つが、非常におかしい点でございます。
現在、割引価格的に課税評価しているものに何があるかと申しますと、著作権とか鉱業権とか、あるいは、営業権といった将来価値を生むであろうというもの、今全部の価値は実現しないけれども将来価値が実現してくるというようなものの評価の場合は、国税庁基本通達でも8分の複利現価でやるという方式が決まっております。このように、他の分野で8分の割引曲線でやるというのが決まっているのに、林業についてだけ、なぜグラーゼル式でやるのかということでございます。昭和20年代だったら、林業は特別の動きをしていたので、グラーゼルでも問題は少なかったということでして、今は9分のものを主張してもいいくらいですが、一般のものが8分ならそれ以上はなかなか難しいでしょうから、8分の複利現価を適用して貰ったらどうかということでございます。そうすれば、相当に違ってくると思います。さらに、C経費なんていうのもやめて貰うということでございます。大体、林業に造林費等の費用を投ずるならば、昔は所有者がその経費の原価を割ってまで処分するということは、まずなかったと思います。それだけ、林業が強かったわけでして、原価プラスαというのが、幼齢林の価格の常識であったということですが、現在はそんなことは考慮して貰えません。造林費をいくらかけたから、これだけの値段で買って欲しいといっても、このごろは買い手がなかなかそんな風には見てくれない、持っていたら将来どのくらいの価値になるかということになりまして、金利8分で割り引くという方が余程常識的でございます。その常識で見られるようにするの逆筋であろうと、思うのでございます。
グラーゼルなんていう西洋人の名前がつくと、一定不変の公理であるかのように思うのが、日本人の弊害でございます。中身を全く知らないのに、大蔵省の役人までそう思っているというのが問題でございます。大体、戦後昭和21年の財産税の時に、山林会に村山達雄さんがやってきて、役員をしていた島田東大教授が、グラーゼルあたりがいいのではないかと意見を出したら、それがそのまま採用になったということでございます。そういうものは、もう40年もたって事情が変わったのだから当然改めて貰う必要があるのではないか、ということでこざいます。
グラーゼル式と8分の割引曲線でどのくらい差があるかと申しますと、伐期が延びれば非常に変わってまいりますが、40年の標準伐期ですと20年生の場合に、グラーゼルで0.56なのが割引価格だと0.46ぐらい、それから、10年生ですと0.25が0.22ぐらいになります。10年生以下になりますと、現在はグラーゼルの線に原価がくっついていまして、プラス0.1ぐらいの下駄を履いていますから比較できませんが、単に曲線を比べてみますと、10年生ぐらいで8分の方が多くなる、グラーゼルの方が下にくるということになります。しかし、Cの原価をなくせば、現行よりは非常に有利になるだろうと思います。
細かく考えていけば、非常に複雑な要素はございます。一年間の造林費といったって、10年も下刈、除伐、間伐等の手入れをしなければならない、また、間伐は現在あまり金にはならないが、途中で収入になればどうみるかとか、色々ございます。そういうことをいい出すと、なかなか結論が出ません。やるのならば、途中の収支を相殺し、Cを抜いて複利現価一本ということにすれば、非常にすっきりすると思います。ですから、国税庁の通達で問題になりますのは、地利級と標準伐期と、それから中間樹齢のグラーゼルによる評価方法でして、それらをなんとか原理から改めて貰うというのがCランクの話でございます。
おわりに
以上、相続税に関する問題を、G,A,B、そしてCの四つに分類しまして、御説明したわけでございます。林業生き残りのための政策ということになりますと、外材は入ってくるにまかせざるを得ないという国際情勢であります以上は、政策は中に求めていくしかないわけでございまして、林業の相続税対策は重要な課題でございますけれども、願わくは、B,Cランクぐらいにとどまることなく、なんとかAランクくらいまでのものを、20世紀末に生きる私どもが、21世紀の後継者に渡すお土産としたいというのが、私の念願でございます。御静聴ありがとうございました。