鷹匠 松原英俊
Falconer : Matsubara Hidetoshi

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12.鷹の訓練(2)

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鷹を呼び戻す訓練は、最初はヒモをつけて行います。
鷹の足に5メートルくらいのヒモを結びつけて、
外の止まり木に止め、近くでえさを見せながら呼ん
でみます。飛びたって腕に戻るようになったら、
もっと長いヒモをつけて次第に遠ざかり、
最後にはヒモなしでも必ず鷹匠のもとに戻るように
訓練します。鷹はヒモをはずしてしまえば一羽の自由な鳥。どこへでも飛んでいくことができます。
ここでひとつでも失敗すれば、育てあげた鷹は
永久に戻ってこないかもしれません。
事実、わたしもこの訓練の途中で鷹に逃げられ、
後悔と絶望の思いにかられながら、
二日間雪のなかを探し回ったことがあります。
「呼び戻し」は、鷹匠技術のなかでも極めて重要
なものなのです。
鷹が確実に腕に戻ってくるようになったら、獲物に飛びかかることを覚えさせます。ウサギの皮や生きたニワトリなどを使って、獲物への本能的な衝動を最大限に発揮する状態へもっていきます。
弟子入りしていた当時、この訓練では非常に痛い
経験をした思い出があります。
わたしがヒモをつけたウサギの皮を引いて雪の上
を走りはじめると、師匠が小高い丘の上から
「吹雪」というオスのクマタカを放ちました。
吹雪はすごいスピードで斜面を落下するかのよう
に、一直線にこちらに向かって飛んできました。
わたしは雪の上を走りながら、途中でなにげなく
吹雪を振り返りました。すると吹雪の目が、
おとりのウサギの皮ではなくわたしの方を見ている
ようなのです。一瞬いやな予感がしました。
はたして数秒後、吹雪はウサギの皮などには
まったく目もくれず、わたしに猛然と襲いかかって
きたのです。クマタカの5センチほどもある鋭い
ツメでやられたらたまったものではありません。
わたしはとっさの判断で顔だけはかくしたのですが、吹雪は、わたしの背中にその両足のツメを深々とつきたてたのです。
幸いジャンパーやセーターなど厚着をしていたので大きなケガは
しませんでしたが、それでもあの恐怖は相当なものでした。
あとで師匠から「こんなことはよくあることだ。しかし鷹が失敗しても犬や猫のようになぐったりしてはいけない。もしそんなことをすれば、鷹は二度ということをきかなくなる」といわれたとき、
野生を相手にする厳しさに身が引き締まる思いでした。


                                   つづく

                                  松原英俊