第3回
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第3回  1999年12月3日(金)

講師   大久保 勲氏(東銀リサーチインターナショナル 研究理事)

テーマ  「中国元の行方――為替相場政策の変遷と国際収支の動向から見て」


1.中国の外国為替政策の変遷

 1949年から52年までは、貿易は私営の輸出入業者が為替を取扱うのみの、特殊な時期であった。53年から72年までは、対外貿易部傘下の国営企業のみが輸出入業務を取扱っていたため、為替上の輸出入による差益・差損は対外貿易部の中で調整すればよかった。計画経済下においては、為替相場をできるだけ動かさないというのが当局の方針であった。そのため物価と為替相場とが乖離していった。73年ブレトンウッズ体制が崩壊し固定相場制が崩れると、当局は人民元を西側通貨に対して相対的に強めに位置づけた。80年対外開放により対外貿易部傘下の国営貿易企業以外も輸出入業務を取扱うようになると、輸出促進のため元は次第に切り下げられていった。94年以降、為替政策はマクロ経済政策の中で位置付けられた。95年中国人民銀行法により、為替政策の目的は通貨価値の安定と経済成長の促進とされた。

 固定相場時代は人民元は金に対する価値を変えなかった。(この間、67年英ポンド14.3%切り下げ、71年スミソニアン多角的通貨調整−円ドルレート360円から308円への変更などがあった) 55年から71年まで1米ドル=2.4618元で不変であった。(実際には朝鮮戦争による敵産管理法もあり公表されず)変動相場制になると、最初は仏フランにリンクし、次に複数通貨によるバスケットへと移行し、現在は米ドルにリンクしている。近年は8.27〜8.28元/$で安定している。将来的にユーロが力をつけてきた場合、再度ユーロを含めたバスケットへ移行する可能性もある。

 開放初期の81年から(84年まで)内部決済レートが新しく導入され、貿易取引では内部決済レートを1米ドル=2.8元とした。貿易外取引(公定レート)と内部決済でレートが違う二重相場であったことを後に当局も認めている。80年には外貨留保制度の実施により、外貨調整業務が認められた。これが外貨調整センターへと発展していった。85年には内部決済レートが廃止された。91年にはそれまでの段階的な大幅調整は、管理された変動相場制へと移行され、公定相場と市場相場(外貨調整センター相場)が並存することになった。(管理フロート) 93年末では公定相場1米ドル=約5.8元(使用率約20%)に対して外貨調整センター相場(市場相場)では1米ドル=約8.7元であった。

 94年1月の外為体制改革により、人民幣を統一レートとする、需給にもとづく管理された単一の変動相場制に移行した。レートを一本化した時点で使用率を加味した固定相場と市場相場の加重平均は8.2元前後のところ市場相場に会せて8.7元に統一したこともあり、相場は8.3元前後まで上昇した。しかしながら最近の相場は実際には当局の強い管理下でほとんど動いていない。当局は現在は市場経済への過渡期と見ており、96年に中国はIMF8条国(経常取引における為替の交換性あり)となったが資本取引における交換性が認められるのは2010年以降になるであろう。当局はアジア経済危機の中国への波及があまり大きくなかったのは資本取引を自由化していなかったためであると認識している。しかし、後にじわじわと影響が及び、積極的財政政策(拡張性財政政策)を98年からとるようになった。


2.人民元の切り下げはないとする主な理由

 外貨準備が多い。(外貨準備のほかに、個人が約800億ドルの外貨預金を保有している。企業でも限定的に外貨預金を持てるようになり、その額が200億ドルを超えると言われている。)直接投資実行ベースで今年350億ドルを確保することが確実(9月までで292億ドル)

 輸出が好調である。99年1〜10月で対前年比4.3%増、黒字が238億ドルとなっている。また7,8,9月と連続して前年同月比が伸びている。

 人民元が切り下がれば香港ドルを不安定にし、香港ドルの米ドルペッグ制維持にも影響が出る。現在の為替相場政策は94年以降マクロ経済政策に組み込まれており、それ以前までが一貫して切り下げトレンドであったといって、それを現在に当てはめることはできない。経済がグローバル化しており、中国の要因だけで為替政策を取ることが難しくなってきている。輸出の約半分は外資系企業が担っており(99年加工貿易比率57.5%)、人民元切り下げは外国からの直接投資にマイナスとなる。輸出刺激作用としては、人民元切り下げという消極的な対応よりも、輸出増値税還付率の引き上げといった直接的な対応のほうが効果が期待される。

3.今後の人民元の動向

 現在の絶対的な安定(8.27〜8.28元でほぼ固定)から、WTO加盟や市場経済の移行に応じてより弾力的な運用になり、若干の変動幅をもって上下動することになろうが、相対的には安定させるであろう。2000年の7%経済成長も可能な見通しである現在では、国際収支の大幅な悪化や国内での悪性インフレの発生といったことがない限り、大幅な切り下げの可能性はますます小さくなってきている。

以上