体験発表


第51回体験発表


   メニュー:サンドウィッチ2種
         牛乳寒天
         アイスコーヒー

  発表者 :28歳 男性    
       対人恐怖症

 はじめて症状が出たのが、中学2年の頃です。それまでは、自分で言うのもなんですが、スポーツも良く出来、自分には出来ない事はないと思って生きてきました。でも、盲腸をきっかけに急に体が動かなくなったり、スポーツが思う様に出来なくなってしまいました。初めのうちはたいして気にしなかったけれど、高校に入ると、その症状がもっと悪くなってきて、スポーツはもちろん、友達と遊んでいる時にも症状が出るようになってきました。どういう症状かと言うと、たとえばスポーツをする前に吐き気がして動けなくなったり、友達と遊んでいる時気持ちが悪くなったりすることです。それでも頑張って生活していましたが、吐き気がして動けなくなってしまうという事にどうしても意識を集中してしまってから、すべての歯車が狂い出したようになり、今まで出来ていた事がすべて出来なくなってしまいました。友達に相談も出来ず、何で俺がこんな目に遭わなければならないんだと凄い絶望感を感じて死にたいとまで思いました。でも、本当に死ぬ事も出来ずにいました。それからは、みんなにバレない様に遊んだりしていましたが、辛くて一人でいる事が多くなりました。それからは、完璧に症状にとらわれる様になって、自分は胃が悪いんだ!とか、体の何処かが悪いんだ!と考えながらも、本当の事を知るのが怖くて病院にも行かないでいました。そうしているうちに、だんだん気づき始めた事が出てきました。もし、本当に胃が悪かったら、ご飯も食べられなくなっているはずなのに、まったく異常がありません。精神的なのかなとも思いましたが、それは認めたくありませんでした。そう思いながら5年くらい悩み続けました。

 24歳になった頃、思いきって病院に行ってみる事にしました。内科を受診しバリウムを飲みましたが異常がなく、精神科に回されて症状の事を話すだけ話したけど、結局病名も解からないまま安定剤を貰っただけでした。凄くショックを受けました。それでもまだ自分は胃が悪いと信じつづけました。胃カメラを飲めばすべてが分かると信じ、今年の始めに胃カメラを飲みました。でもやっぱり異常はありませんでした。本当は分かっていた事でした。それでやっと自分の症状は精神的なものだと思うようになってきました。その頃ちょうど彼女が森田病院の事を友達から聞いたらしく、僕に薦めてくれました。初めは乗り気ではなかったのですが、これからの将来の事を考えると、いつまでも症状に逃げていないで頑張ろう、やるからには徹底的にやろうと思ったので、会社を辞めて入院する事を決意しました。

 入院していきなり臥褥ということをやりました。1日目、2日目は症状の事を考えたり、ボーっとしていたので、それほどきつくはありませんでした。3日目は、なんだかイライラしてきて外が見たいなどと考えるようになりました。4日目、5日目がピークで、寝ているのも辛いし、なにより動きたいという気持ちで、こんな事をして本当に良くなるのか?臥褥なんかやめて家に帰りたいと思ったり、人と話がしたいと思いました。6日目、7日目はイライラしていたけれど、あと残り少しだと自分に言い聞かせて気合いで頑張りました。この臥褥は、想像以上に辛く、途中からは症状の事はあまり気にしなくなり、外に出て普通の生活がしたいと思うようになっていました。本当に良い経験ができたと思いました。

 臥褥が終わって軽作業期に入りました。ただ草取りをしただけでした。それだけでも嬉しかったです。重作業期に入ると、みんなと同じ生活をするようになりました。朝6時からの掃除、午前午後の畑作業、夕方の掃除、この3点を必ずやれと言うことでした。でもそれだけで本当に症状が良くなるのか?と疑問に思いました。作業をやればやるほど不安や不満がでてきました。先生は「焦らずにボチボチやってください」としか言わないので、ここに入院していても意味がないと思い退院しようかとも考えました。でもみんなもそれぞれ違う症状で苦しんで自問自答しながら頑張っているのを感じて、少し見方を変えてみようと思い、病院生活や畑作業を焦らずにやっていこうと思いました。

 1ヶ月が過ぎたあたりで、前までは夜も寝つきが悪く朝が起きれずに苦しんでいたのが、いつのまにか寝つきも良くなり、起きるのが辛くなくなってきていました。生活のリズムが安定してきていると実感してきました。その頃から自分の中で変化が出てきました。入院してから何かしようと思い、散歩に行くようにはなりましたが、最初は何にも考えずに歩いていました。それがだんだん散歩をしながら症状ではなくて自分自身を見つめるようになってきました。たとえば自分はどんな性格なのか?ということを考えるようになり、自分は自己中心的で絶対欲が強く、他人を見下して見たり、常に完璧でいなければいけないと思ったりして強がって生きてきた、という事が解ってきました。そう考えると次は自分の弱い所も見えてくるようになってきました。それは、完璧でいたいという自分に反して、本当は気が小さく人の顔色ばかりをうかがって行動し、失敗したらどうしよう、人に嫌われたくないと思っている自分、という心の中のギャップがこの症状を生んだのだと思うようになってきました。今まで、何か目的があっても症状のせいにして何もせずに逃げてきたけど、森田の体験療法を通じて自分の性格・症状を理解し、その事を受け入れるようになりました。症状が出ても目的があるなら立ち止まらずやる事はやる!森田の言葉を借りれば「目的本位、行動本位」ですが、その事を実行するだけだと考えるようになりました。

 入院してから2ヶ月が過ぎ病院生活にも慣れてきていたので、症状が出る時もありましたが、さほど気にしなくなっていました。初めは緊張して症状が出ていた集団療法も、だんだん普通に出られるようになっていました。ところが、退院2週間前の集団療法の1時間前に突然症状が出てしまいました。あまりに突然だったので、自分でもビックリしてしまい、「逃げたい」という気持ちもあったけど、前とは違い、これは「避けては通れない道」と自分に言い聞かせて心を落ち着かせて頑張って出席しました。結果は今まで通り普通にできました。その後あらためて思ったのが、症状が出たのはショックでしたが、「これくらいの事で症状は出ないだろう」というふうに変に自信過剰になっていたことに気づけた事です。今回の経験は、これから社会に出る前に良い教訓になりました。まだ症状はあるのだから、すぐに調子に乗らず「一喜一憂」せずに症状を「あるがまま」に受け入れられる心の広さと行動力、これからいろいろな困難に立ち向かう心の強さを持ちたいです。退院してからも森田で体験したことを肝に命じて普通の生活が送れるように頑張っていきたいです。みなさん、本当にお世話になりました。

       

主治医のコメント:

今回の体験発表からわかるように、あなたは極めて典型的な教科書通りの経過をたどりました。しかし森田療法の理論については集団精神療法の時間以外にはあまり勉強しませんでしたね。一対一の問診でも私はあなたに森田療法の理論について特に教えていません。自分自身で森田療法を体得したというか、入院生活の経験の中で誰に教えられたわけでもなく、自分自身で森田療法を導き出したと言えましょう。このことからして森田療法というものは普遍的なものであり、森田的生活を送れば誰でも自分自身で森田療法の理念を導き出すことができるものだと思います。

さて症状的にはあなたは対人恐怖症となっています。しかし、吐き気・嘔吐が主症状であり、これは通常普通神経質の症状ということになります。ですから診る先生によっては普通神経質とされる場合もあるでしょう。ところが、場面に着目すると症状発現が対人場面に限られ、自分の体のことを気にするだけでなく、他人の前で緊張するのが強いので対人恐怖症としたわけです。まあ、対人恐怖症と普通神経質の合わさったというか、中間的な症状とも思われます。

体験発表の中身に入りますと、先に述べたとおり、あなたの経過は森田療法として非常に典型的なものと言えます。症状の初発は中学2年生の頃とのことですね。それまではスポーツもできたし何事にも自信があったのに、虫垂炎をきっかけにして当たり前にできていたことが出来なくなっていきました。実は対人恐怖症の人というのは、発症前は他人に対してビクビクしていたというよりも、結構皆の中の人気者であったり、クラス委員をしたりして自信に満ちていた人が多いのです。しかし、自信があったり人気者であったりする反面、実は神経質であるということが多いのです。つまり外見上自信がありそうなようすでも、内面では「他人に良く思われているだろうか?」、「評判が落ちやしないだろうか?」などと絶えずビクビクしていながら生活しているわけです。そういう人が何かをきっかけに自信をなくすと対人恐怖症がおきると言われています。スポーツが得意であったり自信満々に生活していたあなたは、症状の出現を契機に症状に対する予期不安が強くなり、症状が今日もおきるのではないか、明日もおきるのではないかと身構え、その結果「精神交互作用」という悪循環の過程で症状が重症化し、身動きがとれなくなってしまったのです。

激しい絶望感が出て死にたいとまで考える抑うつ状態となりながらも精神科には行かず、これは身体症状であると言い聞かせ、あくまで内科を受診することとなります。これは普通神経質の人によくあることなのですが、他の科に何回も行って検査を受けては異常はないと言われて、そんなはずはないとまた別の病院に行って胃カメラ飲んでみて、などと他科のドクターショッピングを繰り返すのです。あなたが良かったのは、逃げずに症状に向き合ったということで、これは治療意欲につながります。治療意欲とは単に治したい、治りたいと思うだけでなく、治すためには労力をいとわないという心構えです。あなたにはこれがありました。

入院の時期も重要なのですが、ちょうど良い時期だったと思います。内科的にも異常がなく、精神的に治さなければいけないと思ったまさにその時、知人から森田療法を聞き、悩みながらも入院を決意しました。森田療法には「(口卒)啄同時(そったくどうじ)」という言葉があります。これは「孵化の時、雛鳥が卵の中から殻を破って出てくる一方、同時に親鳥も外から殻を突っついて助ける」という意味で、森田療法的には、治療したいという本人の意志と治療すべきという客観的な状況とが同時にあればその時が治療の好機であるということです。あなたにもまさしくその言葉があてはまると思います。

森田療法では臥褥を始めて、最初は安静、次に煩悶、そして退屈という過程で推移するのが教科書的と言われますが、あなたはその通りの経緯をとったと思います。1.2日目はなんとかやり過ごし、3.4.5日目にイライラしたり、疑問を持ち、6.7日目は気合で乗り切りました。普通の生活がしたいと思うようになったのは退屈期の典型的な気分といえるものです。

臥褥の後は草取りをしただけで楽しかったようですが、その後だんだん疑問が出てきて、「草取りなんかしていて役に立つのだろうか?」、「草を1本抜いたら良くなるのか?3本抜いたら3倍良くなるのか?」などと不安になってきます。臥褥後によくある不安ですね。もちろん作業療法とはそういうものではなく、症状に対する関心から現実生活に目を移すことが重要なのです。臥褥後、だんだん不安になってきたり、作業についての疑問も出てくるようになるのは、症状を治したいという気持ちが強すぎるからなのです。退院しようかとも考えたとのことですが、そういう時は「ともかくやってみよう」という姿勢が肝心です。「皆もそれぞれ違う症状を抱えながらも頑張っているのだから、自分もやるだけやってみよう」という気持ちが生まれたとのことですが、この気持ちは森田療法を受ける上では非常に重要なのです。そうしていくうちに少し良くなっていったということですが、それは正しい生活リズムが身についたからであり、本人の言う通りです。不眠症であったとしても睡眠薬でなく昼間の労働により心地よい眠りについていくというのが良いですね。

そこから先があなたの独特のところとなります。だんだん考えるようになりました。症状を見つめる頃になったということです。ともかくやってみようという段階から、正しい生活リズムを得て、症状を見つめるところへ到達していったということです。この症状を見つめるということは、臥褥明け直後でなく一通り作業療法を行った後にその体験を基に考えた方が良いですね。症状を見つめた上での結論は、悩みの元は実は性格的要素から来ているということですね。自己中心的で、欲深、完璧主義という性格は、症状に見舞われると、人の顔色を窺い、失敗が怖いと後ろ向きになってしまうのです。その点を自ら気が付いたところがすばらしい。他人から押し付けられた考えでなく自分自身で見出したことで、その洞察は本物になると思います。私は何も言いませんでしたが、これも「症状不問」と言えるかもしれません。森田療法とは、環境を与えられて自分で見つけていくものだということを実践したわけです。それから次に目的本位、行動本位という姿勢が重要だと自分で気が付いた。そして自らの意志で実行したということですね。

退院2週間前に症状が悪くなったのはむしろ良いことです。避けては通れない道と思い頑張ったとありますが、その通りで、これは「症状が出るのを恐れてはいけない」、「症状が良くなったかを評価してはいけない」、「症状がどうあれ目的本位でやっていく」、「良くなった、悪くなったと判断することは森田的ではない」などと言えます。つまり症状など良くても悪くても関係ないということですね。森田療法的にきわめて良くなった人に話を聞くと、「人に影響されることもあるし、症状もあるかと言われればあるけれどもそれを問題にはしていない。以前と違うのは症状によってあたふたすることなく、普段は症状があるかどうかを忘れている。つまり症状は眼中にない」と言っておりました。こういう態度が良いですね。症状がなくなるのではなく、ある程度慣れるということです。慣れてくると、緊張があっても何とかなってきたという経験から、どうということはなくやるべきことはできる。これを何百回と繰り返すうちに知らない間に前ほど症状がないなと思う日がそのうちやってくるわけです。

あなたも今後、症状に見舞われることもあるでしょう。しかしあってもかまわないのです。症状があってもやるべきことをやっていけば社会人として問題はない。症状が良くても油断せず、症状が悪くても絶望的になるでもなく、やるべきことを淡々ととこなしていく姿勢が大事なんですね。

本日が退院という日になりますが、いつ症状が来てもいいという心構えで、今後とも頑張ってください。