体験発表


第61回体験発表
茶話会 メニュー:
     トマトとイチゴのサンド
     キュウリとキウイのゼリー
     やまもも
     アイスコーヒー
        
体験発表者:
      20歳 男性 予備校生

      うつ病(気分循環症)
            

体験発表

 僕は幼少時から神経質だったそうで、今でもそうですが、小さいことでよく落ち込んでいました。
 一番初めに出た症状として覚えているのは、小学校高学年の頃、自分の口臭を極度に気にするようになったことです。一時はそのせいで誰とも話すことが出来なくなりました。
 その後症状は出たり消えたりしつつ中学生になりました。中学1年のとき、塾に入ったのですが、そこの先生がとても恐い先生で、また塾の進度がとても速く、神経がすり減り人と会話することが出来なくなりました。
 しかしそれは一時的なものですぐに治りました。塾は替えましたが、この頃から理由の分からない不安や苦しさ、また自己嫌悪で苦しむようになりました。過去のことを思い出して唐突に苦しくなることが出始めたのもこの頃です。そのようなことと勉強の苦しさとが重なり自殺未遂をしました。失敗し、何度も繰り返しました。

 医者に診せられ、うつ病と診断されました。学校を休み、しばらくの間祖母の家で静養を取り、学校へもまた行き始め一時は回復しました。
 しかしまた自殺未遂を起こし入院しました。入院中も一度自殺未遂をし、結局約5ヶ月間入院しました。
 退院後、高校へは行かず、しばらくして予備校に通い始めました。しかし、うつで苦しく行けなくなり、家で無為な生活を送るようになりました。そんな中、医者に森田療法を教えられ、興味が湧き入院することにしました。

 臥褥に入り、始めの二日間は退屈で苦しみました。次にとても幸せな気持ちになり、その次は憂うつで堪まらなく死にたくなりました。最後の二日間は、ぼーっと過ごしあまり感情が起こりませんでした。
 臥褥が明け軽作業期に入り、草取りをしましたが、やる気に満ちていたのを覚えています。デイルームでは他の患者さんと一緒に座り少し話をし、言いようのない幸福感を覚えたのも臥褥の明けた日でした。

 軽作業期から作業期に入り、畑で作業をするようになりました。絹さやを採ったり畝を作ったりしました。没頭できたときもできなかったときもありました。いろいろなことで落ち込んだりしましたが、段々と向上心が湧いてきて、やがて向上する生活に幸せを覚えるようになりました。
 作業時間以外は、読書をしたり、散歩をしたり、常に何かをしていました。森田正馬の言葉を現実に当てはめ、前向きな生活を送りました。
 しかし唐突にうつがやってきて、何もする気が起きず、畑に出てもふらふらで、立っているのがやっと、というときが何度かありました。

 次第に入院前の無気力感が去来するようになりました。そもそも自分は森田療法を受けていていいのだろうか、症状をよくするための努力をなぜしているのだろうか。場違いな悩みであることは百も承知でしたが、自分がよくなりたいのかすら分からなくなってしまいました。
 しかし僕の気分の波は大きく、何日かで、あるいは一日のうちでも、憂うつで死のうと思ったり、逆に天にも昇るような幸福な気分になったりもするのでした。気分の良い時は興奮を抑えるのがやっと、という時もあります。
 そんなわけで気分に流されるまま無気力の悩みも流されてしまいました。その後も気分はころころと変わり続けました。無気力とやる気が共存したり、散歩中急に幸せな気持ちになったり、無気力で全てがどうでもよくなることもしばしばでした。

 森田療法では行動をすることが大事だそうです。内山先生にも僕が気分のことを話すと「とにかく行動」と教えられました。僕は行動の際、気分は気分、と割り切ることが出来ず、気分を引きずることがよくありました。
 しかし、それでも行動するうちに問題を客観的に見られるようになったり、あるいは新しいアイデアが浮かんだりして解決することがありました。内山先生は、僕の症状は森田療法の適応とは少しずれているけれども、この療法で何かしらのヒントを見つけられれば、とおっしゃいました。そのヒントの一つがこの行動なのかと思います。
 結果的にこの入院森田療法で学んだことは、入院前より少し行動本位に近づけたことだと思います。また物事への固執が強かった自分を客観的に見られるようになり、その固執が緩和したように感じます。
 他にも何か学んだことがあるかもしれませんが、今思い浮かぶのはこの二つです。退院後にまた何か分かるかもしれません。

 その退院後ですが、また元の予備校に戻って油絵を勉強しようと思います。不安はありません。今はぼやーっとした気持ちです。行動本位な生活を送れればいいと思いますが、無気力が勝つと何も出来なくなるのではないかと思います。
 気分が変わりやすいことはあまり治ったとは思わないですが、逆にそれが無気力への対処になるかもしれません。内山先生は「芸術家と精神科医は不幸な方がいい」とおっしゃいました。そんな楽しげなことを考えながら将来を築いていきたいです。

 つたない文章でしたが、これで体験発表を終わりとさせて頂きます。最後に、内山先生、看護師の方々、指導員の方、開放病棟の皆さんに、本当にお世話になり、心からお礼を言いたいです。短い間でしたがどうもありがとうございました。

講話

 朗々と体験発表を述べて頂きましたね。
 本人の話によれば、むしろ体験発表よりも森田療法のビデオの感想文の方が難しかったそうで、体験発表は流れるような文章で本人の症状が生き生きとよく表れていました。

 さてあなたは、最初の頃別の病院でうつ病と診断されたとのことで、広い意味で言えばうつ病かもしれませんが、典型的なうつ病ではないです。典型的なうつ病ですと気分の波が1〜3ヵ月ごとに起きるものですが、あなたの場合、10分、15分という間隔なので違います。

 ベースには憂鬱な気分、死にたい願望があります。原因はおそらく個人的な種々の問題でしょうが、全体的に言えば「思春期心性」から出ているのではないかと考えられます。13〜14歳くらいから18〜19歳の大学に入る頃までは、普通誰でもそうですが、心が未熟で(だから思春期と言うわけですが)不安定という特徴があります。

 何が未成熟かと言うと、よく言うのは「アイデンティティ(identity)の未確立」ということです。訳すと「自己同一性」と言います。要するに自分が何者かということ、平たく分かり易く言うと、自分の社会の中での役割あるいはやりたいことが何かというものです。
 社会性というか自分がどれだけ社会に貢献する位置にあるか、それが子どもと大人の境目です。あなた自身がどういう状況でそうなったのかは詳しいところまでは聞いていませんが、おそらくアイデンティティの問題があったのでしょう。

 こういうものの治療法には、1つに「精神分析」があります。小さい頃からの幼少時の体験、親子関係を明らかにすることができます。そして親との関わりの中で症状が現れる可能性が高いと考えます。

 もう1つの治療法は「社会経験」です。実は治療と言わずに普通の人が成熟する過程が「社会経験」であり、大学に入ったり就職する中で色々考えて行動して、環境から影響を受けて培われていくものです。
 その中で社会の役割が見えてきます。自分が見えてくるということが期待できることになります。
 森田療法はその擬似的体験をするものになり得るということになります。森田療法は元々は神経症の治療法なので、それだけを考えるとあなたの症状に特別マッチするものではないですが、「社会経験」をさせる機会と考えれば、あなたにとって有用なものの1つとなり得るのです。

 私の師匠の大原健士郎先生が森田療法は一言で何かと言うと「創造的体験療法」だと言っています。つまり、未熟である人が成熟する体験をするのが森田療法なのです。もちろん入院療法を想定しての場合です。

 普通に大学に入ったり就職する中で、いったんドロップアウトしてうまくいかない場合の受け皿が今の日本の社会にはなく、安倍首相の言う「再チャレンジ」する機会が意外に少ないと言えます。それを再チャレンジする環境として森田療法は有意義ではないかと考えられます。

 森田療法の環境としての長所がどこにあるかと言うと、第1に「多様な年齢層の集団」であることです。その中でも若者が主力になっていて、一般的には20〜30代が多いのが長所です。

 第2に「共同生活」であることです。個室ではなく大部屋でカーテンを引きながら、他人を意識しながらというのが訓練には非常にいいという面があります。

 そして第3に、私が非常にすばらしいと思っているのは、「森田神経質の集団」であることです。時々違う人もいますが、全体的に見るとそういう集団になっています。
 この集団の特徴は、非常に謙虚で、おとなしく、わがままな人が比較的少ないことです。一般社会の人間関係の荒波に比べるとずっと柔らかいのです。あまり厳しい殺伐としている所だと嫌になってしまいます。ドロップアウトしている場合は以前と同じように厳しい集団ではなく、より緩い集団から復帰する方がやりやすいのです。森田療法は社会勉強する場合の入門になるという特徴があります。

 あなたの場合は更にここでの体験が「未知の体験」であったことも特徴です。畑作業もそうですが、あなた以外にもここに来て初めて洗濯をしたという人もいます。元々の症状で入院前はいろんなことが頭の中を巡って堂々巡りし、それは過去と言ってもいいですし自信欠乏と言ってもいいですが、こういったものからうつ状態になっていました。心の中の大部分を過去や何やらが占めていました。
 森田療法を経験すると、以前と同じように悩みが残ったとしてもそれ以外の背景が大きくなります。森田療法の結果、悩みが相対的に小さくなるのです。そうすることで自己を確立する1つの方法が得られます。
 大原先生の言う「創造的体験療法」を経験することが、普通に大学に入ったり就職する中でドロップしてうまくいかなかった場合の自己の再確立に役立つということです。

 あなたの場合これからまたカウンセリング等で精神分析的アプローチを受けてみてもいいのではないかと思いますが、今回の森田療法のように「人間の幅を増やす」というのも1つのアプローチだと私は思います。

 それに加えて、帰ってから美術の方向に進む時に、自然に触れた体験というか畑の風景とか思い出されれば、森田療法の体験が想像力をかきたてて、創作に効果があるのではないでしょうか。

 これからも頑張って頂きたいと思います。