ツバキは木に春と書く。文字通り代表的な春の花木だ。しかし実際は多種多様、早咲きでは十月から遅いものでは五月下旬になって咲くものもある。お茶に近いサザンカや、中国やベトナムの原種ツバキなどもあるので、近年愛好家が増えている。
僕は二十年前にニ女の誕生花として、ツバキの鉢を買い求めてから、ツバキの魅力にとりつかれた。何十鉢と品種が増えるに従い、いつか世界に一つしかない自分だけのツバキを作ってやろう、という野望が芽生えた。ツバキの交配である。
交配作業はシンプルで誰でもできる。開花直前のツバキのつぼみを、カッターなどで丸く切り取り、中心にある雌しべのみを残す。この雌しべの先端に、交配したい品種の黄色の雄しべの花粉をつける。このあとは他の花粉が侵入しないように袋をかけ、品種の名前を書いておけば作業完了である。
ただし不稔性(発生不全など)のツバキもあるので、これは専門書などで調べておいた方がよい。また一発でうまくいかないものもあるので、庭木などの大きなツバキの場合は、複数交配すると成功率が高いと思う。
十月に実が熟れる。弾ける前に収穫しないと、どの親からできたのか分からなくなるので気を使う。東京周辺ならそのままプランターなどに蒔(ま)いてしまう。寒い地方では、水苔などにくるんで保存し、翌春蒔いた方が凍らない。四、五年でやっと初花が咲く。
同じ親木から出た兄弟でさえ、花が少しずつ違う。また育ち具合も違う。さらに数年すると品種としての特性が安定してくる。花が良いのに木が弱い種類もある。これらは淘汰(とうた)される。
こうして十年以上たち、花に名前がつく。「桃色吐息」とか「赤兎馬(せきとば)」「安理1号」などである。当然、登録をしたわけではないので自己満足でしかない。しかし、どうだろう。自分の部屋の窓際に、トキ色のツバキが咲いていて、それが世界で一つしかない花だとしたら、特別な幸福感を味わうことができると思う。
つづく
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