長女が夜中に僕を起こしていうには「屋根裏に何かいる。怖いから見て」。あぜんとして娘の部屋に行ってみると、確かにゴソゴソ動き回る音や、コツコツと固い物が当たる音がする。二女も「最近ずっと変な音がしてた。うなり声がすることもある」というので、何だか鳥肌が立つような気分になった。まさか妖怪が住み着いたんじゃ………。
この夜は棒で屋根裏をつっついたら静かになったので「たぶん屋根でカラスが休んでいたんだろう」という結論に落ち着いた。
ある日、屋根にペンキを塗る工事が始まり、職人さんが足場を掛けていて、素っ頓狂な声を挙げた。「ギャー、タヌキが出た!」僕らが外へ出て見ると、何と電話線の上を犬のような動物が渡って行くのが見えた。長女が「フェッレトだ」といい、カミさんは「イタチだわ」といい、二女は「しっぽが細いキツネだ」といった。いずれも違った。
その夕方「キュウキュウ」と庭で鳴くような声がしたので窓を明けると、何と親子のハクビシンがいた。ニ匹は屋根に向って鳴いている。その方向を見ると、一匹のハクビシンの子供が逃げ遅れて首を伸ばしている。
僕は物干しから靴下を取って、手袋代わりに手にはめ、足場を伝って屋根に登った。オイデオイデをすると、ハクビシンは素直に寄って来た。信じられないだろうが、僕は子犬を抱っこするように、野生のハクビシンを抱いて部屋に戻ったのである。
娘たちがデジカメを持って待ちかまえている。「どうするのお父さん」とカミさんも大興奮だ。飼い猫のモモもキョトンとしているのがおかしい。記念撮影が終わって庭に放すと、植え込みの闇に消えていった。たぶん、待っていた家族と一緒に安全な所を見つけて暮らしているに違いない。
こうして初夏の妖怪事件は決着した。我が家の近くには玉川上水(東京・武蔵野)が流れている。ハクビシンなどの野生動物は、こうした川沿いを一晩で五、六十キロも移動するという。こうしてみると川は野生動物のライフラインでもあった。
つづく
|