らんぼうの連載記事
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‘03年〜'05年まで日経新聞夕刊に大好評連載された“みなみらんぼうのスローライフ”が帰ってきました。セレクト版でお届けします。ある人はなつかしく、又ある人は新鮮な共感を持ってらんぼうワールドをお楽しみください。
 
は亡き直木賞作家の景山民夫は、ジャイアント馬場が大好きだった。僕の知る限り、二つの短編小説の主人公がジャイアント馬場だった。子供のころからあこがれていたスーパースターというものは、心の中で細胞分裂を繰り返し、大人になっても大きな夢の固まりとなって、胸の奥に埋まっている。
 僕もジャイアント馬場が大好きだった。「ハッパー」と言いながら、水平打ちを相手ののど元に食らわす、のんびりしたタイミングがよかった。あおむけに倒れると、相手は思わず手を差しのべたりした。晩年はますますスローになり、十六文キックの時は、敵の方から馬場さんの脚に向かってきた。
 トロいとか八百長だ、などという軽べつの声のある中で、別の次元で僕らはプロレスを愛し、ジャイアント馬場にあこがれた。
 ずいぶん昔、まだ新幹線には食堂車というものがあった時代、僕は大阪で仕事が終わり、仕事先が用意したグリーン席に収まった。ちょうど夕飯の時間でもあったので、食堂車に行ったら、知り合いが声を掛けてきた。渡りに舟ではないが、一緒に食事をしながらビールを飲んで話し込んだ。
 名古屋を過ぎてしばらくしたころ、僕はふと網棚に置いてきた荷物などが気になり、弾んでいた話を切り上げ、自分の席に向かった。
 僕は自分のチケットの番号を確認しながら、ボックスに目を移すと、そこにはかつて見たこともない巨大な人間が、二つの席のシートを寝かせた上に、窮屈にひざを折りたたみ、風邪を引いたブルドッグのような、すさまじいいびきをかいて寝ていた。
 まだ読んでない僕の週刊誌は、彼の尻の下で折れ曲がっていて、まさか肩をたたいて「すみません、ここ僕の席ですけど」なんて言えるわけがない。起こしたら、僕の味わっているとても言い尽くせない幸福な気分が、パチンとはじけて、現実に戻ってしまう。僕はそっと荷物を取ると、一つだけ空いていた前方の席に移動した。その後“ジャイアント馬場が僕の席に座っていた”は語りぐさになった。

つづく

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