娘の誕生日にいただいた鳩(はと)時計がある。おじいさんの古時計のように、長く娘の部屋で時を告げていたが、デジタルの目覚まし時計と交代し、今は八ヶ岳南ろくの山荘で、多くは誰もいない部屋で寂しく鳴いている。
鳩時計が山荘に引っ越したばかりの初夏、早朝からカッコウらが威勢よく鳴いていた。うちのカミさんは寝床から飛び上がり、「あらいけない、もう十時だわ」と言った。とばっちりを受けた僕が腕時計を見ると、まだ六時過ぎである。「何寝ぼけてるんだよ。まだ六時を回ったばかりじゃないか」そういうとカミさんは「だって今鳩時計が十回鳴ったのよ。あたし数えていたんだもん」。
すると窓外で再びカッコウが鳴き出す。「あらいけない。あたしカッコウの声を鳩時計の音と間違えちゃったわ」と、カミさん。全くのんきなものだが、そういわれてみると、鳩時計の時を知らせる音は本当にカッコウの声に似ている。字で書くと「ポッポー」ということになるが、もう少し正確に書くと、「ホワッホー」という感じだ。これがカッコウとほぼ同じだからおかしい。カミさんはすっかりだまされたわけだ。
ただ、一つ妙だなと思ったことがある。鳩時計はポッポーと鳴くけれど、本物のハトはグルッグルーとか、ウッグルクーという感じで鳴くし、キジバトはデデッポッポーという風である。かわいい鳴き方のときはククルークーなど。「ククルククパロマ」という歌もある。歌といえば「はとぽっぽ」の影響が強いのかな。
鳩時計を改めて眺めてみると、確かにハトが中にいる。うーん、我が家の娘たちもこのせいか、ハトは「ポッポー」と鳴くものだ、と思い込んでしまった。
この時以来、我が家では鳩時計のことをカッコウ時計と言い換えるようになった。ある日、泊まりに来たAさんは、朝のコーヒーを飲みながら「ほんとうにあっちでもこっちでもカッコウが鳴いているねえ」と感じていたが、「あっちで鳴いているのが本物、こっちは偽者」と説明しなければならなかった。
つづく
|