らんぼうの連載記事
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‘03年〜'05年まで日経新聞夕刊に大好評連載された“みなみらんぼうのスローライフ”が帰ってきました。セレクト版でお届けします。ある人はなつかしく、又ある人は新鮮な共感を持ってらんぼうワールドをお楽しみください。
 
の宮城県の生家の周囲には、クリの木だけでも十ニ本あった。ほかにも子供のころはカキの木やクルミなどがあり、うっそうとしていた。
 先日、福島県の会津にテレビの取材に出掛け、古い農家を訪ねたら、江戸時代のお触れ書を見せられた。それには屋敷の近くに植えるのに適する草木と、その効用が書かれていた。クリやクルミ、カキなどがあるとともに、クワやウコギ、ウメ、キリ、ミョウガ、フキなどがあった。孫娘が嫁に行くころになると切って、タンスを作って送り出すというキリの木こそ、僕の家にはなっかたが、ほかはほとんど我が家の周りにあった。物資の流通が盛んでない時代は、必然的な生活の知恵だったのだろう。
 僕の生家の門前には、祖母が嫁いで来た時に持ってきて植えたという、一本のソメイヨシノの老木があった。僕が幼いころは祖母も元気で、花どきには開け放った座敷に、花弁が舞い込んできた。祖母は「掃いても掃いてもまだ降り積もる」と替え歌をうたっていたのが心に残っている。父が元気だったころ、東京の僕の所に電話が入った。何かと思ったら「あの門前のサクラの古木を切らねばならぬが、いいか?」というものだった。消防車が入れるように道の拡張工事が始まるのだという。
 僕は、「何で僕に聞くの、お父さんの家なんだから、自分で決めればいいでしょう?」と言った。すると父は「いや、そうなんだけど、お前たちが小さいころ登って遊んだり、セミを捕ったりした木でしょう、いろいろ思い出もあることだろうから、勝手に切っちゃいけないと思ってさ」と話した。父はシンガポールにいる僕の弟の所にも国際電話をかけ、切る了承を得たようだ。
 子供たちはみな生家を離れて、幼い日の思い出など、普段は忘れて生活しているのに、残された父には盛夏になればサクラの木に虫取り網を伸ばす、子供の姿が見えたのかもしれない。
 後日、帰郷したら、スッキリした門前の横に、サクラの幼苗が植えられていた。

つづく

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