昨年ネパールのランタン谷を旅したとき、4500メートルの無名峰にみんなで登った。そのとき一緒だった松本浩次郎さん(74)に「来年僕は還暦記念でモンブラン(4807メートル)に登る予定です。一緒に行きませんか、ここよりあと三百メートル高いだけですよ」と誘った。断ると思ったら松本さんはニコリと笑い「モンブランですか、いいですね」と同意した。
松本さんとお会いしたのは、カナダのロッキー山脈のトッレキングでだった。
「私は松本浩次郎です。幸四郎は弟、というのはウソですが」という、おなじみの自己紹介で印象に残った方だ。その後、らんぼう隊として、ニュージーランドやピレネー、そしてネパールの山などを一緒に歩いた。
久しぶりにお会いすると「昨日までカナダでスキーをしてました」とか「パリに散歩に行って来ました」などグローバル感覚に優れた、とてもダンディーな生き方をされている。だから年も取らない。外国に行っても特に言葉が達者というわけでもないのに、進んで外国人の中に入ろうとする。相手が女性だとなお積極的になる。
毎朝ニ時間歩いてモンブランに備えた松本さんだが、唐松岳での雪山訓練では、アイゼンが合わず一苦労。思わず「私にも行けるのでしょうか」と弱音が出た。「我が家にモンブランのビデオがあります。見に来ませんか」と誘った。松本さんは試験前の中学生のように、無心でビデオに見入っていた。
そして岩と氷と雪のモンブランである。曇り空だったが、ほぼ無風という好条件に恵まれ、まず先行隊の女性陣が次々に登頂。中ほどに出発した僕が白く輝く頂に立ったときには、神懸かり的に青空が広がった。記念撮影をしていたら、雪陵に松本さんが来た」そう思ったとき、僕の目に涙がにじんだ。
「夢のようですね」というと松本さんもこだまのように「夢のようです」と息を弾ませた。こうして僕らの74歳は、モンブランをやっつけた。たいしたものである。
つづく
|