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楽しきかな山歩き
 丹沢山魂は神奈川・山梨・静岡の3県にまたがり、東西約40キロ、南北20キロほどの山地で、高度も最高峰の蛭ケ岳が1,678メートルと高くない。
 山頂からは東京や神奈川の夜景が望めるほど、身近で気さくな山に見えるが、初心者が標高のみで軽くみて登ると大変な目に遭う。
 丹沢は小さなアルプスとも呼ばれる。谷が入りくみ、急峻で、太平洋の気流がぶつかるため、天候が不順。そのため多くの遭難者を出してきた山でもある。
 初めから恐い話をしてしまったが、逆にいえば、この山で地図の読み方を覚えたり、ルートファインディングの技術を身につけたりと、いろいろ勉強できる山なのだ。だから、小さなアルプス丹沢で登山学を覚え、それから大きな日本アルプスヘ入る、というのが正しいと思う。

楽しきかな山歩き
楽しきかな山歩き
 

明治生命保険代理社が発行しているPR紙「黎明」に連載された山歩きエッセイです。

●第1回
●第2回
●第3回
●第4回
●第5回
●第6回
●第7回
●第8回
●第9回
●第10回
 そこで今回は丹沢入門として、神奈川県側の2俣から、訓練所尾根を登って小丸に行き、そこから左に曲がって鍋割山(1,273)へ行こう。丹沢の山はどこも急だが、ここは比較的短く、小丸まで行くと平坦な尾根道になるので、初心者向きだ。
 小丸の手前の草地は、ちょうど弁当を広げるのに良い所だが、丹沢に住む鹿たちもこのことを良く知っていて、突然背後から寄って来て、オニギリをパクリと横取りすることがある。バンビが1緒だとついやりたくなるが、心を鬼にして餌はやらないようにしよう。
 尾根にはブナの木が多く、しかし枯れているのも目につく。雪国のブナは白く美しく、しかもたくましさを感じるのだが、太平洋岸のブナは黒く汚れた肌で、どこかしら不健康だ。この辺りの新緑は5月に入ってからだろう。それでも木々の枝はやわらかさを増し、春の訪れに吐息をついているように感じる。
 のんびりと尾根の鍋割山稜を行くと、鍋割山とそばに建つ鍋割山荘に着く。首都圏からだと日帰りできるコースだが、できればここに1泊すると良い。小屋主の草野延孝さんは日本1の力持ちだし、名物の鍋焼きうどんも食べてみたい。それに何より、ここから見る秦野方面の夜景が値千金なのだから。
 数年前僕が訪れた時はまだ雪があり、丸い山頂に立って下界を見ると、時々霧が眼下を流れていく。それが目の錯覚で、僕の立っている頂が、宇宙船のように動いているように感じたものだった。だからぜひ1泊して、ミステリアスな体験をしてごらんなさい。だまされたと思って(笑)。
 下りは後沢乗越経由で2俣に戻る。春はたった1日山で泊まっただけなのに、麓の新緑が少し濃くなった、と感じたりする。これもすごいことですねぇ。
(C)Illustration:
Takeshi Hinoura
●第11回
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