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楽しきかな山歩き
 5月になると平野部では初夏のおももちだが、2千メートル級の山に登ると、ようやくカラマツの新緑が始まったばかりである。町にいるとカラマツの新緑など、見る機会がないと思うが、初夏の陽差しを浴びてきらめくカラマツ林は、ほんとうに優しくてうっとりするほど美しい。それにブナの新緑。これもまるで微妙に色の変化する緑の海を見る思いだ。たぶん昔の人が“樹海”と呼んだのは、この新緑の季節の森を見てのことだったろう。

楽しきかな山歩き
楽しきかな山歩き
 

明治生命保険代理社が発行しているPR紙「黎明」に連載された山歩きエッセイです。

●第1回
●第2回
●第3回
●第4回
●第5回
●第6回
●第7回
●第8回
●第9回
●第10回
 ガイドブックには花の見どころしか紹介されないけれど、本当はこうした樹木の新緑も負けず劣らず美しいのである。さて、今回は山梨県の甘利山に行こう。そしてこれでは物足りないという人は、そこから先にそびえる千頭星山(2,139)に登ろう。この千頭星山が隠れた名山である。山頂は森の中だが、そこへ行くまでの尾根道が笹や針葉樹、ダケカンバなどの美しい小道になっていて、東には富士山が見えるし、反対側には8ヶ岳、奥秩父の山々、そして行く手には鳳凰3山や櫛形山が目前だ。だからこの山に登る日は晴れの日に限る。もしも天気が悪ければ、手前の甘利山で引き返しても良いという訳だ。
 昼食は山頂ではなく、笹原まで戻って採ろう。カラマツの新緑のすき間から見える南アルプスを背に、富士を眺めながら食べる昼食は、たとえおにぎり1個でも、極上のおいしさになる。僕はこの山上レストランが大好きだ。だから重くてもかならず小型ガスバーナーやナベなどを持って行く。野菜などはあらかじめ必要な分だけ家で切ったものを持って行くと、山を汚さない。ゴミは出さないよう捨てないように心がけると、気分も良い。
 さて甘利山はレンゲツツジの名所だ。花期は6月上旬。最盛期になると山が火事になったのか?と思うほど、オレンジに染まる。5月ならトウゴクミツバツツジに出会えるかも知れない。僕らは甘利山から千頭星山に至る途中で満開のツツジに会い、みんなで記念写真を撮って帰って来た。他にフデリンドウの可憐な花やムシカリなどの花木に出会った。
 ともかく花の時期の甘利山はすごい人出になると思う。花より人の方が多くなるかも知れない(笑)。ところが1歩甘利山の山頂を離れて、千頭星山の方に分け入ると、グンと静寂感が高まる。カッコウやツツドリの声がのどかで、いかにも深山に来た感じになる。そう、この静けさこそ山の魅力だ。千頭星山までは道もしっかりしているので、ゆっくりじっくり山歩きを楽しんでほしい。
(C)Illustration:
Takeshi Hinoura
●第11回
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