―感染性胃腸炎の経験―
福井産業保健推進センター相談員
福井リハビリテーション病院 院長 三好 義光
毎年冬が近づくと感染性胃腸炎の記事や報道が増えてきます。私の病院も11月に入ると緊張しながら警戒態勢に入ります。なぜなら、これまでに感染性胃腸炎の集団発生を2度経験しているからです。このような経験が皆さんの何らかの参考になればと思いここに提示することにいたしました。(以下、日本慢性期医療学会抄録より抜粋)
当院は現在、医療療養病床76床、介護療養病床99床、合計175床を持つ長期療養型の病院である。 第一回目は平成17年1月に発生した。入院中の87歳の女性が二階食堂で昼食中突然嘔吐。その二日後同じ食堂で食事をしていた16人に下痢、嘔吐などの消化器症状出現し、検査した3人からノロウイルスが検出された(表1)。
それによる感染性胃腸炎の集団感染と診断しマニュアルに従い対応したが、入院患者39名、職員16名が発症し、終息するのに2週間かかった(表2-A)。
発症した患者の状態は54%に認知症があり、ADL自立は41%、全介助33%、トイレ自立59%、おむつ14%、そしてほとんどが食堂で食事していた。症状で多かったのは下痢で次に嘔吐、嘔気と続き微熱も認めた。治療はほとんどが絶食と点滴補液にて軽快し経過観察のみで軽快した症例もみられた。有症状日数は平均すると2.8日であった。第二回目は平成18年12月である。4階病棟の入院患者4人に嘔吐、下痢症状出現。一人からノロウイルスを検出した。当初より感染性胃腸炎として対応していたが、発症数は入院患者56名、職員33名と一回目より多く、すべてが終息するのに50日を要した(表2-B)。
この集団感染事例の経過を比較検討してみると、一回目は短期集中発生型、二回目は長期広範発生型のように見える。一回目の原因は、食堂という多数の人が集まって食事をしている場所で、一人の感染者が突然嘔吐しその飛沫により感染したものと推測されるが、二回目の事例は職員が先に発症しており、入院患者も少人数から始まりあちこちに散発が見られて、職員、入院患者ともになかなか終息しなかった。これは福井県の感染性胃腸炎がいつもより早期に市中に広がり、その結果職員や患者家族によるノロウイルスが持ち込まれる機会が増え、かつ長期にわたったことによるものと思われる。
以上が要旨ですが、当時問題になったのは@認知症の患者さんたちを何日隔離すべきか。A職員が発症した場合何日自宅療養すべきか。でした。@については三日を予定しましたが認知症の患者さんにはなかなか理解を得られず、不満、不穏、徘徊が出現し周知徹底に困難を伴いました。Aについては例に漏れず看護士、介護士の人手不足もありやはり三日で出勤してもらいました。通常この感染症は大体三日で症状は軽快することが多いのですが、糞便には一週間以上ウイルスが排出されるといわれています。理想は一週間近く隔離や休養すべきかもしれませんが現実はなかなか厳しいものがありました。これは今も変わらず当院だけでなく、どこの医療施設や老人ホームも今は重篤な高齢者と認知症の患者さんが増加し、人手不足を一層深刻なものにしています。このような状況の中、今年も10月に入り感染症の警戒時期となり、今後どのように対応すべきか頭を悩ましているのが現状です。